翻訳家ならぜひ受賞したい日本翻訳大賞とは?

読書好きな方、とくに海外文学が好きな方の中には、毎年行われる日本翻訳大賞の発表を心待ちにしている方も多いでしょう。日本翻訳大賞は、翻訳家にとっても、読者にとっても目が離せないイベントです。今回は、翻訳家にとって栄誉ある賞である日本翻訳大賞についてご紹介します。

優れた日本語翻訳に与えられる日本翻訳大賞

2015年から開催されている日本翻訳大賞は、日本における翻訳文学の品質を向上させる点で大きく貢献しています。日本翻訳大賞は、翻訳小説の売れ行きが悪いことを憂いた翻訳家の西崎憲氏が発起人となり、仲間の英米文学とドイツ文学の翻訳家たちと共に設立した賞で、現在の主催は日本翻訳大賞実行委員会です。クラウドファンディングで支持者を募ったところ、なんとたったの1日で目標額を達成。約3週間後には、目標額の5倍近くもの資金が集まりました。こうして順調に賞を設立することができ、第一回日本翻訳大賞は2015年4月に発表されました。

対象となるのは、日本語の翻訳書です。ただし、原文は英語やドイツ語以外にも、フランス語やスペイン語、チェコ語や韓国語などさまざまな言語の作品が集まることに。第一次選考は、1年間のうちに発行された翻訳書の中から、読者の推薦投票によって行われます。作品を推薦するときには、読者は推薦文を添えなければなりません。推薦作品リストに載ったものの中から、もっとも推薦が多かった10作品に加え、選考委員が推薦する作品が第二次選考に進むことができます。これらの作品の中から5作品に絞られ、最終選考が行われます。

日本翻訳大賞に選ばれた作品たち

第一回日本翻訳大賞の大賞受賞作品は、ヒョン・ジェフン・斎藤真理子氏が翻訳した韓国文学「カステラ」(パク・ミンギュ作)と、阿部賢一氏・篠原琢氏が翻訳を手掛けたチェコ文学「エウロペアナ 二〇世紀史概説」(パトリク・オウジェドニーク作)でした。読者賞は、東江一紀が翻訳した「ストーナー」(ジョン・ウィリアムズ作)。

現在、第九回日本翻訳大賞まで行われており、2023年4月に大賞受賞作品が発表されました。最終選考対象作品は、「黄金中変奏曲」(リチャード・パワーズ作、森慎一郎氏と若島正氏による翻訳)、「スモモの木の啓示」(ショクーフェ・アーザル作、堤幸氏による翻訳)、「チェヴェングール」(アンドレイ・プラトーノフ作、工藤順氏・石井優貴氏による翻訳)、「辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿」(莫理斯/トレヴァーモリス作、舩山 むつみ氏による翻訳)、「路上の陽光」(ラシャムジャ作、星泉氏による翻訳)。この5作品の中から、ロシア文学「チェヴェングール」と、「辮髪のシャーロック・ホームズ 神探福邇の事件簿」が大賞を受賞しました。

翻訳の未来に貢献する日本翻訳大賞

日本翻訳大賞は、翻訳文学のファンを増やすほか、翻訳業界に大きな影響を与えている賞です。翻訳家にとって、日本翻訳大賞に選ばれることは大変な栄誉で、すばらしい翻訳を行うモチベーションにもなり得ています。「海外の小説は読みにくい」という声が聞かれますが、これは翻訳家にとって不名誉なこと。優れた海外の作品を紹介しようと翻訳したつもりが、その翻訳が原因で読み手を減らす場合もあります。

文芸翻訳は産業翻訳とは違って、正しくわかりやすい翻訳以上のものが求められます。原文の内容を伝えるだけではなく、日本語として自然な翻訳を心掛けなければ、文芸翻訳に携わることはできません。そのためには、外国語だけではなく、日本語の能力も高くなければ文芸翻訳を行うのは難しいでしょう。日本語翻訳大賞の受賞作品の原文と翻訳作品の両方を読むことは、翻訳に携わる方にとって大きな勉強となります。翻訳家なら誰もが受賞したいと望む日本翻訳大賞は、日本語翻訳の質を高め、優れた翻訳家を育む土壌となっています。

  

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