産業翻訳の一つに数えられる特許翻訳は、これまで便利な翻訳支援ツールによる効率化の恩恵をあまり受けていない翻訳分野として知られていました。ところが現在、特許翻訳は機械翻訳の影響を大きく受けている分野です。今回は、翻訳業界の中でも将来性を危ぶむ人が多い特許翻訳についてご紹介します。
特許翻訳とは?
新しい発明を期間内(日本国内では原則20年)で独占的に使用できる特許権は、特許庁の審査を経て取得できる財産権の一つです。特許権が侵害された場合には、損害賠償の請求が可能になります。主に物の発明、方法の発明、製造方法の発明などが特許権取得の対象になりますが、特許出願から審査完了までには、数ヵ月~2年ほど期間がかかるといわれています。
特許翻訳とは、日本国内だけではなく、外国でも特許権を取得をするために提出する書類を翻訳することです。特許翻訳では、発明の内容の説明文書である特許明細書、国外の特許庁から発送された拒絶理由通知書、拒絶理由通知書を受け取った後に送る意見書や明細書を修正した補正書など、さまざまな文書の翻訳が求められます。
ひと口に外国といっても特許制度や法律は国や地域ごとに異なっているため、特許翻訳に携わる人は翻訳スキルや専門技術の知識を備えているほか、法律制度に精通している必要があります。
特許翻訳の将来性について
特許出願件数の減少は、特許事務所や弁理士だけではなく、特許翻訳に携わる翻訳者にも影響を与えます。数年前から国内の特許事務所の数は減っていますが、新型コロナウィルスの影響でさらに減少傾向にあるようです。
2020年4月~6月の国内の特許出願件数は、前年と比べて10%近く減少しました。2019年に307,969件あった国内・国際特許出願件数は、2020年には288,472件となっており、2万件弱も減少したことが明らかになっています。
このような状況でも、経験豊富な特許翻訳者は仕事の依頼が絶えないようですが、フリーランスの翻訳者や駆け出し翻訳者が特許翻訳業界に新規参入するのは、難しいかもしれません。 国内出願後に国際出願をする場合、特許翻訳の出番ですが、翻訳文の提出までにかなりの期間猶予があるため、新型コロナウィルスの特許翻訳業界への影響は今後さらに深刻な状況になっていくと予測されます。ただし、医薬・化学技術分野の特許出願は増加する見込みがありますから、それらの分野の専門知識を強みにできる翻訳者は特許翻訳業界でも生き残ることができるのではないでしょうか。
特許翻訳と機械翻訳
ほかの翻訳分野同様、正確さが求められる特許翻訳ですが、正確であれば直訳でも容認されるのが大きな特徴です。特許翻訳はその特殊さから、翻訳支援ツールでは処理しにくく、ツールを活用しない特許翻訳者の存在も珍しくはありません。しかしながら、正確であれば、読みやすさは二の次でも可とされる特許翻訳は、機械翻訳が活躍しやすい翻訳分野だといえます。
法律用語や定型表現は機械翻訳でも十分カバーできるため、特許翻訳に機械翻訳を活用すればコスト削減を実現できます。日本だけではなく、海外の特許翻訳業界も機械翻訳の進出が目覚ましく、機械翻訳を活用して大方の翻訳を完成させることもあるようです。 ただし、機械翻訳も完璧ではありません。誤訳や訳抜けが生じたり、発明者の意図をくみ取った訳出ができなかったりする場合もありますから、まだまだ人間の介入が求められるといえるでしょう。実際、機械翻訳を活用しながら特許翻訳を行う翻訳者の数も多いようです。将来性が危ぶまれる分野とはいえ、特許翻訳を完全に機械翻訳に任せるには、さらに翻訳精度を向上させる必要があると考えられています。
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