世界三大探偵の一人に数えられるブラウン神父は、G・K・チェスタトン(G. K. Chesterton)が生み出した魅力的な探偵小説の中の人物です。ブラウン神父シリーズで有名なチェスタトンですが、そのほかにも面白い作品をたくさん執筆しています。今回は、チェスタトンのおすすめ作品をご紹介します。
G・K・チェスタトンはどんな人?
1874年、G・K・チェスタトンは、イギリス・ロンドンの中心地であるケンジントンで不動産業を営んでいたエドワード・チェスタトンの息子として生まれました。画家を目指していたもののうまくいかず、22歳のときに出版社に勤め出してからは、美術・文学批評家として活躍します。1902年には「デイリー・ニュース」紙で、1905年からは「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」紙にて長年に渡りコラムを執筆しました。
約80冊の本、約200編の短編小説、4000編のエッセイ、数えきれないほどの詩といくつかの戯曲を書いたチェスタトンでしたが、彼の作品の多くはウィットとユーモアにあふれています。1928年、アントニー・バークリーが設立したイギリスのミステリー作家協会「ディテクションクラブ」の一員で、亡くなるまで初代会長を務めました。
チェスタトンのおすすめ作品
芸術家にはなれなかったチェスタトンでしたが、文学的才能には恵まれ、素晴らしい作品を数多く残しました。理知的で機知に富んだ作品は、現在に至るまで読者を魅了してやみません。彼の作品は、アガサ・クリスティやジョン・ディクスン・カーに影響を与えたといわれています。
1911年に発表された短編集で、邦題は「ブラウン神父の童心」です。翻訳本のタイトルですが、The Innocenceが無知、純智、無心、無垢などに訳されたこともありました。12作品が収められており、1つの話がそれほど長くないため中級以上の英語学習者におすすめです。この短編集に収められている「The Sign of the Broken Sword(折れた剣)」という作品の中には、「Where does a wise man hide a leaf? In the forest.(賢い男が木の葉を隠すならどこに隠す?森の中さ)」という名セリフが登場します。
Charles Dickens: A Critical Study
イギリスの大御所作家といえば、チャールズ・ディケンズです。チャールズ・ディケンズに関してはさまざまな研究書が発表されていますが、イギリスの大詩人であり文芸批評家のT・S・エリオットによれば、「(チェスタトンのこの作品は)これまでディケンズについて書かれた本の中で最高の作品であると思う。」と感想を述べています。 エリオットはチェスタトンの作品に対して、「チェスタトンの作品は何度でも繰り返し読むに値する。これほど多くの作品を発表しているにもかかわらず、どの作品も興味深いのは注目に値するとしか言いようがない。」と高評価しています。邦題は「木曜日の男」でいかにも推理小説っぽいですが、奇想天外なストーリーかつ独特な作風なので、哲学的作品といっても過言ではありません。英語上級者にはおすすめですが、中級者の場合には翻訳本を読んでから読むと良いでしょう。この本は推理作家でチェスタトンの親友だったE・C・ベントリーに捧げられた作品で、ベントリーはお返しに「トレント最後の事件」をチェスタトンに捧げています。
Paradoxes(パラドックス)とは逆説のことですが、じつはチェスタトンはパラドックスの申し子と呼ばれていました。「ポンド氏の逆説」と邦題が付けられたこちらの作品では、推理の中における逆説が冴え渡っています。短編集ですが、逆説をテーマにしたミステリーになっているため理解しにくい表現も多く登場するので英語上級者におすすめです。1930年代のイギリス社会と文化、世界の状況を知っておくとさらに楽しめる作品となっています。