翻訳と通訳はどちらが疲れる?言語間距離の関係について

翻訳と通訳には多くの共通点がありますが、実際にはまったく違う内容の仕事です。そのため、翻訳と通訳を比べてどちらが難しいか、どちらが大変かを決めるなんてことは、ナンセンスでしかありません。しかし、言語関連の仕事に就きたい人にとって、翻訳と通訳の違いをはっきり認識しておくことは自分の適性を見極めるうえで重要なことでしょう。

言語間距離と翻訳・通訳の関係

翻訳と通訳の共通点

翻訳者の仕事は文章を別の言語に置き換えることであり、通訳者の仕事は話された内容を別の言語に口頭で言い換えることです。仕事内容は違いますが、翻訳と通訳には言語を扱う点でたくさんの共通点があります。どちらも言語に精通していることはもちろん、専門知識と明確かつ正確に内容を伝える力が求められるでしょう。翻訳においても通訳においても、言語と訳語の言語間距離は作業の成果と品質に大きく影響します。

言語間距離とは?

言語間距離(Linguistic distance)とは、文法や語順、発音や文字の観点から言語同士がどれくらい似ていて、どれくらいの違いがあるかということを指します。例えば、英語とフランス語は言語間距離が近い言語ですが、英語と日本語は言語間距離が遠い言語です。言語間距離が遠い英語と日本語は、言語間距離が近い言語同士と比べると、翻訳・通訳作業の負荷が大きいといえるでしょう。

とくに瞬間的な言語処理能力が求められる通訳の場合は、言語間距離があればあるほど適切な訳語選びの負荷が大きくなります。一方、翻訳の場合には、言語間距離があったとしても文章を何度も繰り返して読み熟考する時間が取れるので、訳語選びの負荷は少ないはずです。ところが、実際には適切な訳語選びにおいては、翻訳のほうが負荷が大きいといえます。

翻訳と通訳の違い

通訳のほうが大変?

一般的には、瞬間的に訳語を選出しなければならない通訳のほうが難しいという考えがあるようです。「瞬発力が求められない分、翻訳のほうが楽に違いない」と誤解している人もいるでしょう。確かに、原文を繰り返し読め、徹底的に調べてから訳出していく翻訳のほうが簡単な作業のように思えるかもしれません。

しかし、言語間距離が大きいと、作業難易度が高くなる点では翻訳も通訳も変わりません。では、言語間距離が近い場合にはどうでしょうか?言語間距離が近いときには、通訳の訳語選びの負荷は低減します。ところが、翻訳においては、たとえ言語間距離が近くても作業の大変さという点はほとんど変わらないのです。言語間距離が遠くても近くても、翻訳は徹底的に調べものを行わなくてはなりません。

訳語の精度にこだわる翻訳

言語間距離が遠い近いにかかわらず、調べものをしっかり行う必要があるのは、適切な訳語を選ぶ必要があるからです。もちろん、翻訳も通訳も適切な訳語を選出しなければならず、内容を正確に伝える努力を怠ってはなりません。ですが、訳語の精度においては、翻訳のほうが通訳よりもはるかに気を使わなければならないでしょう。

言葉の森の中を駆け抜け、ふさわしい木の実を拾って届けるのが通訳の仕事です。通訳は、一定の基準を満たした木の実を拾う必要があるものの、重視されるのはきちんと届けることにあります。翻訳の場合は、言葉の森の中を散策し、最高の木の実を選ばなければなりません。ひとつでも質の悪い木の実が混じっていれば、すべての努力は水の泡になってしまいます。

翻訳の仕事と通訳の仕事では、脳の疲れ方が異なります。どちらも言語に関連する専門的な仕事ですが、翻訳に向いている人、通訳に向いている人にタイプが分かれるでしょう。翻訳の仕事は、最適な訳語選びに神経を使い続けなければならず、いわば長距離走のようです。翻訳も通訳もすばらしい仕事ですが、生みの苦しみ(訳語の選出)が長く続く点では、翻訳のほうが疲れる仕事だといえるかもしれません。

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